Ken Smith History

13歳になった時にオーケストラのコントラバスプレイヤーとして活動をはじめたケン・スミスは、16歳になったころすでにニューヨークでプロとしての活動をスタートしていました。ニューヨークフィルハーモニックオーケストラで活躍していたビル・ブロッサムやレジー・ワークマンを師としていたケンが彼等から学んだ事でもっとも大きい事は、”常に自分らしい演奏をする”と言う事でした。

17歳になったころケンのプロミュージシャンとしての才能はさらに開花します。伝説的ジャズプレイヤーであるホレス・シルバーのバンドで演奏するようになり、また当時ブロードウェイの音楽業界で譜面が読めるただひとりの若手ベースプレイヤーとして非常に多忙な生活を送るようになりました。(ホレス・シルバーのバンドは歴代素晴らしいベースプレイヤー達に支えられ、ケンの後任にはフィラデルフィアの若き天才と呼ばれていたスタンリー・クラークやウィル・リー、アンソニー・ジャクソンらがいました。)

ホレス・シルバー以外のスタジオミュージシャンとしての仕事でももっぱらエレクトリックベースの弾き手として名声を得るようになっていたケンですが、依然としてコントラバスでの演奏には人一倍のめり込んでおり、スコット・ラファロやレイ・ブラウンのような素晴らしいコントラバスプレイヤーを目指していました。(時間さえあればコントラバスの練習をし、エレクトリックベースの練習は殆どしていなかったようです。)

19歳になったころ、ケンのミュージシャンとしての生活はさらに多忙を極めるようになり、彼はグレンミラー・オーケストラやモンゴ・サンタマリア、B・B・キング、クリス・コナーやホレス・シルバーらと朝から晩まで演奏するという生活を送るようになりました。またジングル製作の仕事にも携わりはじめ、彼がこなした900~1000ものジングルの仕事のギャランティーは今も支払われています。(そういった膨大な仕事をこなす中で経験した、彼が当時所有していた何本かのヨーロッパ製(主にイタリアとフランス)のコントラバスの素晴らしさが現在のケンスミスベースに多大な影響を与えています。)

ケンはその環境の中で培った経験を活かし彼の生徒や周りのミュージシャン達の楽器の修理やモディファイをするようにもなりましたが、その技術の高さはニューヨークで徐々に知られる存在になっていき、やがて彼にベースの製作を依頼するミュージシャンが現れるようになりました。それがスタンリー・クラークとアンソニー・ジャクソンです。当初彼はベースメーカーを立ち上げる事など全く考えていなかったようですが、カール・トンプソンと共同で製作した最初の1本を見て彼に楽器製作を依頼してくるミュージシャンが後をたたなかったのをきっかけにしてニューヨークで1978年にケンスミス工房をスタートさせました。

ケン・スミスは現在ではスタンダードとなった感のある6弦ベースを世界ではじめて商品化するだけでなく、それに伴って必要になるLow-B用の弦やテーパーコア弦、そしてグラファイト強化ネックなど多弦ベースのパイオニアとして非常に数多くの現在ではスタンダードになったものをこの世に送りだしていますが、これはヨーロッパの弦楽器の影響とケン・スミス自身の長年のプロミュージシャンとしての経験、そして数多くの一流の演奏家の意見が長い時間をかけて常にオリジナリティ溢れる素晴らしいものを作ろうというケンの物づくりに対する姿勢が融合した結果だと思います。

ベースフロンティア誌におけるインタヴューでケンは”毎年新しいメーカーが参入して来ますが、なぜあなたの楽器は支持され選ばれ続けているのですか?”との問いに以下のように答えています。

“誰も自分のような方法でベースを作れないからだと思います。例えば使用している材に関しては、普通のメーカーはすでにある程度の大きさにカットされた材や、すでに製品の形に加工されたものを用いていますが、ケンスミス工房では、自分の子供の年齢よりも長い間自然乾燥を施した木材を丸太で仕入れ、それを来るべき時までは決して使用しないようにしています。また我々のベースはコンピューターに頼らず、自らの高い技術に誇りを持つ熟練の職人の勘と経験によってのみ製作される完全なハンドメイドベースであり、彼等と私はチームというよりも一種の家族のようなものであります。常に材の仕入れから最後のセットアップまで細心の注意を払っていて、自分自身この会社、及びベース製作に人生の全てを捧げていると言っても言い過ぎでは無いと思っています。その証拠にケンスミスベースのクォリティは一度として落ちた事はなく向上し続けています。常により良いものを作る為に試行錯誤を繰り返していますので当たり前の事だとは思いますが。

我々はただのベースを作るのでは無く、一生弾くことのできる本物の”楽器”のみを作っているのです。”

このように創業以来決して変わらない一流の楽器作りへの情熱とこだわり、そして自信がケンスミスベースの良さの全てを表しているのではないでしょうか。